これだけは知っておきたい生成AIの基本とすごさ
中川 正洋
マネージング・ディレクター&パートナー
生成AIへの関心が急速に高まっている。ここではまず生成AIの基礎知識を押さえつつ、活用の可能性について探りたい。
生成AIの特徴は大きく二つある。一つは、「自然言語処理」という技術の進歩によって、自然な言葉で指示が出せるようになったことだ。コンピューターの専門的な知識はいらず、誰でも簡単に利用できる。加えて、生成AIは大量のデータを事前学習しているので、従来のようにユーザーが学習データを用意したり、調整したりする必要がなく、特別な準備をすることなく汎用的な活用が可能になる。
二つ目は、様々な形式でアウトプットが可能なことだ。つまり、文章(テキスト)で答えることはもちろん、表、グラフ、画像、音声で答えたり、プログラミングコードを書いたりもしてくれる。
こうした特徴を備えているため、人間がチャット(会話)形式で質問すると、AIが質問の意図をくみ取り、追加の質問をしても、文脈に沿った回答をしてくれる。例えば、「日本でデジタル化を進める際の課題は何か」を聞いてみよう。すぐに、「1.意識の低さ」「2.規制の問題」…「5.IT人材の不足」などと項目を挙げて説明してくれる。
そこで、5番目の人材について、「では、人材不足を解消するにはどうすればいいですか?」と、さらにつっこんで聞いてみる。すると質問の文言には「日本」という言葉が入っていないのに、きちんと日本についての回答が返ってくる。つまりAIが文脈を把握しているわけだ。これは画期的なことだ。
ゴッホ風の画像もお手のもの
次に画像によるアウトプットを見てみよう。東京タワーの風景画をゴッホ、フェルメール、葛飾北斎が描いたらどうなるか。下に示すように、文章で簡単な指示をするだけで、その意図をくみ取って画像を生成することができる。現実には存在しない風景だが、ゴッホのタッチはまさに私たちがイメージするものではないか。北斎も結構いい線を行っている。(フェルメールはもう一つだが、これも指示を工夫して繰り返せばイメージに近いものができるだろう)
次にプログラミングコードの例を見てみよう。
「エクセルのファイル名の末尾に自動的に現在日時をつける」にはどうしたらいいか。すぐに答えられる人はそう多くないだろう。しかし、生成AIならあっという間だ。
このように大まかな要件を伝えるだけで、すぐに実行できるコードを生成する。しかも、コードだけでなく、操作手順も1から教えてくれるので、誰でも手軽に開発できるようになる。
2027年には1200億ドル市場に成長
ロイター通信によると、ChatGPTはサービス開始からわずか2カ月で世界での利用者が1億人に達した。TikTokは9カ月、インスタグラムは2年半、フェイスブックは4年半、ツイッターは5年かかったことを考えると、いかに早いか分かる。
生成AIの市場規模(Total Addressable Market=獲得可能な最大の市場規模)について、BCGは2027年に1200億ドル(約17兆円)規模になると予想している。最も大きな市場は「金融・銀行・保険」で320億ドル、次に「ヘルスケア(医療・健康)」220億ドル、「コンシューマー(消費財)」210億ドルと続く。全体の年平均成長率は66%、1200憶ドルは2023年の世界のノートパソコンの市場とほぼ同じだ。しかもこれは初期段階の試算で、今後の展開によってさらに市場規模が拡大する可能性がある。
では、企業などで生成AIの活用はどのような分野で期待できるのか。研究開発や営業活動から、経理、人事などのバックオフィス業務まで幅広い分野で活用が可能だろう。
例えば、研究開発では、これまで研究者やシステムエンジニア(SE)が書いていたコンピューターのプログラム(コード)を生成AIが書いてくれる。あるいはシステムのセキュリティは十分か、バグはないか、などを自動で検証してくれる。まさに人手と時間がかかっていたところであり、大幅な生産性向上が見込める。
マーケティングや営業では、広告に使う画像や文言の作成、ブログの作成・更新、顧客一人ひとりに合わせた商品やサービスの提案など、クリエイティブな領域でも活用が期待できそうだ。
サプライチェーン(供給網)では、配送ルートやスケジュールの最適化、さらに需給の予測や在庫管理を担うこともあるだろう。
カスタマーサポートでは、チャット機能を使った顧客からの問い合わせへの自動応答、よくある質問と回答(FAQ)の自動作成などが考えられる。
法務関連では、契約書をレビューして問題点を指摘したり、難しい法律文書の言い回しを分かりやすい表現に変換したりすることが可能になる。経理・財務では、大量の数字を処理しなければならない財務諸表や、事業計画に則った予算案を作成してくれるかもしれない。
航空会社の複雑な顧客対応も自動応答で
ここで航空会社のカスタマーサポートを想定したデモ動画を紹介したい。英語版ではあるが、①予定していたフライトがキャンセルになり、顧客が代替便を希望する例、②出発直前にフライトを変更したいと申し出があった例、③預けた荷物が行方不明になった例、を取り上げる。
①の代替便では顧客の細かな要望に沿って、家族の座席をビジネスクラスとエコノミークラスに分けたり、出発ゲートを地図で案内したり、返金の手続きを説明したりしている。③の荷物の例では、行方不明になった荷物を特定するために、顧客が撮った写真の提供を受けて、迅速な対応を目指すとともに、宿泊先を聞いて、見つけ次第届けることを約束している。
これらがすべて自動で行えれば、顧客の満足度はかなり高まるのではないか。
グラフ化も簡単に
次に、音楽市場を例に、データの収集から整理、分析に生成AIがどう活用できるか見てみよう。まず、国別の音楽市場を円グラフで表示するように指示する。
円グラフから棒グラフに変えるよう一言指示するとすぐに作り直してくれる。米国、カナダ、フランス、ブラジル、ドイツ…という順に並び、見やすくなった。
そこで最大市場の米国について、ジャンル別の売り上げを示すように指示する。
ロック、ラテン、メタル、オルタナティブ&パンク、ジャズ、ブルース…という順番になった。
このように、自分が知りたい分野について、国別、ジャンル別、アーティスト別など好きなようにデータを整理でき、円グラフ、棒グラフ、あるいは折れ線グラフなど、利用者が使いたい形にデータを加工してくれる。これまで人手と時間をかけていた資料の収集、分析で生成AIが大きな力を発揮することは間違いないだろう。